燃料電池が変える自動車の未来

L. D. バーンズ
J. B. マコーミック
C. E. ボローニ=バード
200301

日経サイエンス 2003年1月号

10ページ
( 2.4MB )
コンテンツ価格: 700

ベンツ(Karl Benz)が世界初のガソリンエンジン自動車である「パテント・モートル・ワーゲン」を発明してから100年余り。世界経済だけでなく人々の生活も一変させた自動車が新たな変革を引き起こそうとしている。
 その動力源は石油ではなく,水素だ。水素を陽子と電子に分離してモーターを動かす燃料電池は水蒸気しか排出しない。物質から水素を取り出すのに必要なエネルギーを考慮しても余りあるほど燃料電池の効率は高い。
 燃料電池のほかに革命的な自動車を作るもう1つのカギがある。燃料電池と電子制御運転(ドライブ・バイ・ワイヤ)技術の統合だ。これまで機械で制御されていた装置を電子制御に置き換える技術だ。車内空間が広くなるうえに,従来の動力伝達機構がなくなり,構造や形状の面での制約が取り除かれる。顧客の要望に合った多種多様な自動車を自在に作り出せるようになるだろう。
 こうした設計の自由度の高さに着目して,2002年初めに私たちGMが打ち出した新しい概念が「オートノミー(AUTOnomy)」だ。9月末に開かれたパリモーターショーで,オートノミーに基づいたコンセプト自動車「ハイワイヤ(Hy-wire)」を発表した。薄いスケートボードのような車台に,ブレーキや操縦系統だけでなく,燃料電池やモーター,水素貯蔵タンク,電子制御装置,熱交換器を搭載している。
 未来の自動車はたった1カ所の電気回路接続部といくつかの機械的接続機構を使うだけで,車台と車体を接合できるようになる。交換用の車体をかちっとはめ込むだけで,今日は高級車,来週はセダン,来年はミニバンにといった具合に変身できるようになるだろう。
 だからといって,ガソリン車に匹敵するような使い勝手や性能を実現するには,解決すべき問題がまだ山積している。
 最大の障害は,安全で効率の高い水素貯蔵技術をどう開発するかだ。1度の燃料補給で約500kmは走行でき,最低でも総走行距離が約25万kmに達するまでは壊れないだけの耐久性が求められる。水素はさまざまな方法で貯蔵できる。液化したり,圧縮したり,固体に貯蔵したり。いずれも有望なのだが,まだ大きな問題を抱えている。
 もう1つの大きな問題が水素燃料の供給インフラだ。インフラが十分に整わない限り,燃料電池車は普及しないが,相当な数の燃料電池車が走るようにならなければ,インフラの整備は進まない。
 現在の天然ガス供給網を使って家庭や職場で水素を補給するやり方なら,水素への移行は急激に進むだろう。多くの地域で,天然ガスのパイプラインはガソリンスタンド並みに普及しており,天然ガスを改質して水素を取り出し,自動車に補給することもできる。だが,インフラを整備するためには官民のリーダーから支援を取りつける必要がある。
 ガソリン車から燃料電池車へ切り替わるには,20年くらいかかるだろう。燃料電池車のインパクトが十分に理解されるには,少なくともそれくらいの時間がかかる。私たちがこれから目にするのは,革命的な技術によって,自動車とその役割が根本から変わる様子なのだ。