21世紀のクルマがデビュー
普及にはなお課題

青木慎一(編集部)
200301

日経サイエンス 2003年1月号

4ページ
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2002年12月2日,トヨタ自動車とホンダが発売する乗用車タイプの燃料電池車が首相官邸でお披露目される予定だ。内閣官房と内閣府がそれぞれ1台ずつリースを受ける契約を結んだもので,市販車が公道を走るのは世界で初めてだとみられる。
 すでに走行性能はガソリン車並に達している。ホンダの走行テストでは,伴走するガソリン車を引き離すこともあったという。水素は危険とのイメージもあるが,衝突安全性についても市販されているガソリン車と同等だ。
 2社とも基本的な技術はほとんど同じだ。1つだけ違うのが,補助電源に使う蓄電装置だ。現在,燃料電池の発電だけを駆動力にする「直接方式」,制動時の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収してバッテリーに貯える「ハイブリッド方式」,バッテリーの代わりにキャパシター(電界2重層コンデンサー)を使う「キャパシターアシスト方式」の3つがある。トヨタは「プリウス」で実績のあるハイブリッド方式を採用,ホンダは独自開発したキャパシターを搭載している。
 直接方式は軽量化やコストダウンの点で有利だが,現状の燃料電池では坂道や走行中に加速するには力不足。このため,トヨタはニッケル水素電池でモーターに供給する電力を補っている。制動時のエネルギーを効率的に回収できるが,重いうえに,化学反応によって発電するため,急速に放電するのは苦手。充放電を繰り返せば次第に性能が落ちてしまう。
 キャパシターは電気エネルギーを電子のままで蓄えるため,劣化しにくいうえに,高い出力を得やすい。エネルギー密度(大きさ当たりの蓄電能力)が低くて放電時間が短いという欠点があるものの,改良が進めば主流の技術になる可能性もある。
 世界の自動車メーカーが燃料電池車の発売時期を前倒しするのに合わせるように,水素供給インフラの整備でも具体的な動きが出てきた。
 資源エネルギー庁は2002年7月,固体高分子型燃料電池の実証実験を3年計画で実施すると発表した。インフラに関連する技術の実証試験が大きな目的だ。このほかにも,米国や欧州,アイスランドなどで実証テストが始まっている。
 ただ,一般消費者が手を出せるようになるのは当分先だ。どの会社も当面は官公庁や地方自治体,エネルギー企業へのリース販売に限定している。「個人が手を出せる価格は500万円」(日本自動車研究所の渡辺正五主管)が目安となる。そのためには,システムの価格を現在よりも2ケタ引き下げる必要がある。
 燃料電池の価格が高いのは,水素から電子を取り出す電解質膜の値段が高いためだ。だが,量産しても価格を1/10以下にするのは困難だという。オレフィン系など安価な素材を使う研究もされているが,発電性能面などで劣る。このほかにも問題がある。電解質膜に加湿が必要なので,氷点下になるような気候では,純水が凍って膜や機器を壊したりする。動作温度が低いと,ラジエターの冷却効率が下がって容量が相対的に大きくなる問題が生じる。燃料電池車のラジエターの容量は市販車でも,ガソリン車の2倍近いという。
 世界の研究機関やメーカーが研究を進めているが,突破口は見つかっていない。 
 また,自動車としてのエネルギー変換効率を上げるには,モーターやインバーターなどの性能向上が欠かせない。さらに,電極と電解質膜が接合した部分の圧力や表面の状態によって生じる接触抵抗が引き起こす損失を減らすといった努力も必要だ。普及し始めたころの燃料電池車は,実用第1号とは技術的に違ったものになるだろう。