88年ぶりの大発見砂漠に生きていた新昆虫

J.アディス
O.ゾンプロ
E.ムーンボロ=ゴアゴセス
E.マレ
200302

日経サイエンス 2003年2月号

6ページ
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ドイツ・ハンブルク大学の収蔵品である琥珀の塊。4500万年前のバルト海周辺にあった木の樹液が固まったものだ。その琥珀には,昆虫の幼虫が何匹か封じ込められていた。それらは,マックス・プランク陸水学研究所で博士課程の学生だったゾンプロがかつて見たどんな幼虫とも異なっていた。
 ゾンプロはその1カ月後,ロンドンの自然史博物館を訪れた。学芸部長のマーシャル(Judith A. Marshall)は,彼に1950年にアフリカのタンザニアで採集された昆虫の乾燥標本を見せた。何らかの雄の成虫であることは確かだったが,それ以外は皆目わからなかった。ゾンプロはその姿を写真におさめ,ドイツに戻った。
 数日後,彼のもとに別の琥珀標本が届いた。ある収集家が個人的に持っている標本で,雄の成虫が封じ込められていた。顕微鏡でじっくりと観察したゾンプロは,先日ロンドンで見た昆虫とよく似ていることに驚いた。
 ゾンプロは事の重大さに気がついた。この琥珀化石を見せられた指導教官で著者の1人のアディスは,ゾンプロにヨーロッパの博物館にある未同定の昆虫標本を徹底的に調べるように指示した。ゾンプロはあちこちの博物館を訪れては調べたが,なかなかよい結果は得られなかった。しかし,ベルリン自然史博物館で彼はついに雌の成虫のアルコール漬け標本にめぐりあう。それはなんと,あのミステリアスな琥珀の昆虫に酷似していた。
 ゾンプロとアディスは手もとにある琥珀化石標本と,ほぼ1世紀前にナミビアで採集されたこのアルコール標本を徹底的に調べ,さらに驚きを新たにする。ちょっと見ると,後肢が頑丈である点でバッタに似ているが,たいていのバッタとは異なり翅(はね)がない。また,獲物を捕らえたり,それを生きたまま食べるのに役立ちそうなトゲが前肢にあり,この点ではカマキリにも似ている。しかし,頭部と後肢はカマキリとは明らかに異なっていた。
 頭部は上から見ると,草食性のナナフシによく似ている。しかし,ナナフシは中胸部(中肢がついている体節)が長いのが大きな特徴だが,この昆虫の中胸部はずっと短い。また消化管には,昆虫の残骸が詰まっていた。この謎の昆虫は,明らかに肉食性なのだ。
 さらに共同研究者のクラス(Klaus-Dieter Klass)とクリステンゼン(Niels P. Kristensen)は体内の構造にやはり新しい特徴があるのを見つけた。これだけ体の構造や食性に新しい特徴があるとわかれば,結論を出すのに時間はかからなかった──この昆虫のために新たなグループを創設しなくてはならない。ハエや甲虫やアリが別々の目(もく)に入れられているように,この昆虫にも別の独立した目が必要だ。新しい目の設立は実に88年ぶりのことだ。
 この昆虫はカマキリ(カマキリ目Mantodea)ともナナフシ(ナナフシ目Phasmatodea)ともよく似ているので,私たちは新目をマントファスマ目Mantophasmatodeaと名付けた。(本文より)