ハンチントン病の謎

E. カッターネオ
D. リガモンティ
C. ズッカート
200303

日経サイエンス 2003年3月号

7ページ
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コンテンツ価格: 600

ハンチントン病は脳の線条体という部分の神経細胞が死滅する病気だ。19世紀後半にこの病気を報告した内科医ハンチントン(Huntington)父子にちなみ名付けられた。原因遺伝子を持った人は人生半ばの30?40歳代で発病する。効果的な治療法はなく,病気はゆっくりと,容赦なく進行し,15?20年後に身体の自由を完全に失って死亡する。ハンチントン病は主に中枢神経系にダメージを与えるが,長期の療養生活の末に心臓や呼吸器の合併症や,度重なる転倒による頭部外傷などで亡くなる例が多い。
 ハンチントン病を引き起こす遺伝子は1993年に突き止められた。マサチューセッツ総合病院のガゼラ(James F. Gusella)と,当時ミシガン大学アナーバー校にいたコリンズ(Francis S. Collins)をはじめとする世界中の58人の科学者チームが,第4染色体の先端にある遺伝子を同定し,ハンチンチン(huntingtin)と名付けた。
 間もなく遺伝子検査が可能になり,ハンチントン病の家族がいる人を対象に,変異遺伝子を受け継いでいるかどうかが調べられるようになった。この遺伝子は優性遺伝するため,変異型を受け継いだ人は必ず発病する。また,子どもには50%の確率で遺伝子を渡すことになる。
 著者たちは,ハンチントン病の遺伝子がいわば二連発銃のような働きをして病気を引き起こすのだという証拠をつかみつつある。変異遺伝子は神経細胞にとって毒性のあるタンパク質を作るだけでなく,このタンパク質が重要な成長因子の生産を妨げるため,脳の特定の場所で成長因子が欠乏するのだ。動物実験や人での初期の臨床試験では,不足した成長因子を補う治療法が効果を示している。しかし,最近の発見はハンチントン病という疾患のほんの一部を説明しているに過ぎず,その複雑な全体像を明らかにする研究が引き続き必要だ。