ナノマシンで実現する超高密度メモリー

P. ベティガー
G. ビニッヒ
200304

日経サイエンス 2003年4月号

10ページ
( 2.2MB )
コンテンツ価格: 700

IBMはナノテクノロジーを駆使して機械式の高密度メモリーを開発した。2005年にも切手大のメモリーカードとして実用化する。将来は既存の半導体メモリーや光ディスクなどに代わって普及するだろう。もっとも,初の「ナノマシン」の開発は想像以上に困難だった。
 IBMの社内ではこのメモリーを「ミリピード」(Millipede;ヤスデの意味)と呼んでいる。原子間力顕微鏡(AFM)の原理を応用したもので,小さなカンチレバー(片持ち梁)を縦横に並べ,これらを使って高分子材料でできた媒体にデータを書き込む。カンチレバーの先端についた針が媒体に小さなくぼみを付けると「1」を記録。くぼみがない場合は「0」を表す。多数のカンチレバーが並列動作する様子をヤスデの足になぞらえた。「ナノドライブ」といってもいい。
 著者たちはIBMチューリヒ研究所に属する科学者。1990年代前半にIBMが経営難に直面し,研究活動が縮小される中で,基礎研究の成果である走査プローブ技術を応用する道を探ることにした。ミリピードを発案した当初は,書き込んだ情報を消去できるのか,読み書きを高速でできるのかなど,いくつかの問題もあったが,これらを1つひとつ解決していった。
 ミリピードの特徴は,これまでのハードディスクや光ディスク,半導体メモリーなどとはまったく異なる方法でデジタルデータを記録する点にある。数十年後には在来技術は進歩するところまで進歩し,物理的な限界が立ちはだかるが,ミリピードは初のナノマシンともいえる装置だから,その可能性は少しも色あせない。今後数十年にわたってどんどん改良され,より小さな領域にデータを書き込めるようになり,原理的には個々の分子や原子のレベルまで微細化できる可能性がある。私たちが注目したのも,この技術の長期的な将来性だった。