特集:再生医療
パーキンソン病への応用

高橋淳
200306

日経サイエンス 2003年6月号

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パーキンソン病は,脳のなかでドーパミンを分泌するニューロンが死滅することによって生じる。手足がふるえる,体がこわばるといった症状の出るこの病気の治療の第一選択は,L-ドーパをはじめとする薬物療法だ。最近では脳の深部に電極を刺し,胸部に埋め込んだパルス発生器からの信号で刺激する治療法もあり,80%以上の症例で症状が改善するか薬の量を減らせるようになっている。
 ところが,これらの方法で症状は改善できても,ドーパミン産生ニューロンが死んでいくのを食い止めることはできない。そこで,細胞移植によってニューロンを補い,新たな神経回路の形成を促し,機能を再生させるという,より積極的な治療法が望まれてきた。
 欧米では1980年代からパーキンソン病に対する細胞移植療法が始められ,特に胎児の黒質細胞移植はその効果が認められてきた。ただ,この方法では1人の患者のために胎児が5?10体必要とされ,移植用の細胞数を確保する点で問題がある。そこで近年注目されてきたのが「幹細胞」だ。
 幹細胞を使って中枢神経機能を再生する方法としては,幹細胞を移植する方法と患者の体内にある神経幹細胞が分化するように誘導する方法とが考えられている。前者の細胞移植には,次の3つの方法が考えられている。(1)初期胚から取り出したES細胞を増殖させ,その細胞から神経幹細胞あるいはニューロンを誘導して移植する (2)胎児や成人の脳から神経幹細胞を取り出し,培養・増殖して脳内に移植する (3)骨髄間質に存在する間葉系幹細胞などといった他の幹細胞から神経系の細胞を誘導して移植する。
 3つの方法のそれぞれに長所と短所がある。(1)のES細胞は増殖速度が速く,分化しうる細胞の範囲が広いので,移植細胞としての潜在能力は優れている。しかし,逆に増殖や分化のコントロールがうまくいかないと腫瘍を形成する危険性がある。ここではES細胞からの神経系細胞誘導とその移植という方法に注目し,中枢神経機能再生の可能性について紹介しよう。