新薬を生かす次世代ドラッグデリバリー

R. ランガー
200307

日経サイエンス 2003年7月号

8ページ
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口から飲み込まれた薬は,さまざまな障害のある文字通りの迷路を進まなくてはならない。胃酸にも負けずに胃を無事に通り抜け,分解されずに腸までたどり着いても,まだまだゴールは遠い。まずは腸壁を通過して血液の中に入らなくては。血中に入れば入ったで,肝臓が待ち受ける。ここのフィルターをすり抜けないと体の他の部分へ行けないのだ。薬剤は各チェックポイントで消化液に耐え,細胞膜というバリアを突破し,役に立たない破片に分解しようとする酵素の攻撃をかわさなければならない。
 いわゆるバイオテクノロジーを使った最新の薬は難物だ。バイオ薬の多くは,薬の本体(薬効を示す作用物質)がタンパク質であるため,タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の攻撃も切り抜けなくてはならない。プロテアーゼ阻害剤などで薬を包めば,タンパク質薬も分解されずにすむ。だが,そうしたところで次の難関が待ち受ける。普通の薬ならば,ずっと分子が小さいので簡単に血液中までたどり着けるが,タンパク質の薬はあまりに大きいため,腸の内壁を通り抜けることができないのだ。
 ドラッグデリバリー・システム(薬物送達システム;DDS)の目的は,薬の吸収を高めることだけではない。薬が一度に大量に血流に入ったり,長時間にわたって体内にとどまったりすると悪影響を及ぼすこともある。保護剤でコーティングするなどして,薬が血液循環に入る速度や,組織・臓器にとどまる時間をコントロールすることもドラッグデリバリーの重要な役目だ。このさじ加減は微妙で,保護剤のせいで循環系に入るのが遅れると,効果が台無しになる場合もあるだろう。
 薬を注射すれば胃や腸での関門はなくなるが,当然のことながら,患者は何度も注射されたり病院に通ったりするのを嫌がる。そのため,もっと手軽で効果の優れた投薬法が常に求められてきた。
 実際,薬を体内に運ぶ入り口として,小腸はもちろん皮膚,鼻,肺など,体のほぼすべての部分が調べられてきた。その過程で,超音波を使って皮膚から痛みもなく薬剤を吸収させる方法などが考案されてきた。また,ナノテクノロジーや微細加工の最新技術を組み合わせて,薬をスケジュールに合わせて正確に放出できる埋め込み可能なマイクロチップも作られるようになった。将来的には,こうしたマイクロチップに長期にわたる投薬データを記憶させておくことも可能になるだろう。