星の誕生とブラックホール
その奇妙な関係

K. ウィーバー
200310

日経サイエンス 2003年10月号

10ページ
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人間の知る限り,ブラックホールは最も効率の高い破壊兵器かもしれない。強力な重力場により,近づきすぎたものすべては忘却の彼方に永遠に運び去られる。その中は未知の世界で,ひとたび入ってしまうと誰も帰ってこられない。私たちがブラックホールの姿を見られるのは,犠牲者がおとなしく死ぬのを拒んだときだけだ。
 ブラックホールへ渦を巻きながら落ち込んでいく物質の温度は数百万度にまで達し,きわめて明るく輝く。その運動エネルギーや角運動量の一部は光速に近い速さで流れ出る粒子のジェットに受け渡される。さまざまな大きさのブラックホールが電磁波やプラズマを一斉にまき散らしている。天文学者はその現場を宇宙のあちこちで観測している。
 ブラックホールはどれも強力なわけではない。多くの銀河の中心に鎮座する超巨大ブラックホールという名前は,銀河を支配する貪欲なモンスターを連想させるが,宇宙の標準的な規模からすると極めて小さい。その質量は銀河全体の質量の1%以下で,重力場は狭い範囲に集中している。そのため長い間,質量の小さいブラックホールはもちろん,超巨大ブラックホールでも影響を及ぼすのはそのごく周辺部に限られると考えられていた。銀河の中で星が誕生することと超巨大ブラックホールとは無関係だとされていた。
 しかし驚くべきことに,ブラックホールの活動と星の生成が密接に関係していることがここ10年の間にわかってきた。多くの銀河ではブラックホールが貪欲に物質を飲み込んでいる。その結果,銀河中心核から強力な電磁波の放射やプラズマ流が生じる。天文学者はそのような銀河核を活動銀河核 (Active Galactic Nucleus:AGN)と呼んでいる。一方,星が激しい勢いで生成される現象をスターバースト(starburst)と呼ぶ。一見無関係そうに見えるこれら2つの現象は,いったいどのようなメカニズムで結びついているのだろうか。