特集:RNA干渉
ゲノムを見張る驚異のメカニズム

N. C. ラウ
D. P. バーテル
200311

日経サイエンス 2003年11月号

9ページ
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コンテンツ価格: 600

 ほぼすべての動植物細胞に,特定の遺伝子を沈黙させる「RNA干渉」と呼ぶ仕組みがもともと備わっていることが判明した。遺伝情報を伝えるRNAが特殊な形に変化し,これが遺伝子の発現を妨げる。
 この機構は,細胞を有害な遺伝子から守るとともに,発生の過程で正常な遺伝子の活動を調整するために進化してきた。RNA干渉を利用して病気を治療する医薬品も開発できるだろう。
 RNA干渉の仕組みはおよそ次のようなものだと考えられている。細胞内で二重鎖RNAは「ダイサー」と呼ぶ酵素と接触して切断され,長さが22塩基前後の「短い阻害RNA(siRNA)」になる。このsiRNAの二重鎖がほどけ,二重鎖の1本がタンパク質でできた構造体に取り込まれて「RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)」を形成する。
 サイレンシング複合体の中で,siRNA分子はさまざまなmRNAと接触できるような位置にある。siRNAは自身の塩基配列にほぼ完全に相補的な配列を持つmRNAと結合すると,「スライサー」と呼ぶ酵素が働いて捕捉したmRNAを2つに切断する。切断されたmRNA断片にはもはやタンパク質合成を指令する力はない。サイレンシング複合体はこれらの断片を放出し,次の標的を探す。このようにして,RNA干渉という遺伝子検閲官は少量の二重鎖RNAをブラックリストとして使いながら,これに対応するmRNAを見つけ出し,沈黙させるのだ。
 このほか,「マイクロRNA」と呼ぶ小さな制御RNAがsiRNAと同じように遺伝子発現抑制の引き金となることもわかった。 RNA干渉に関する私たちの理解はしだいに確固たるものになり,おそらくまったく新しい遺伝子医療を支える基礎となって結実するだろう。