特集:脳力増強の科学
心を読む機械

P. ロス
200312

日経サイエンス 2003年12月号

4ページ
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コンテンツ価格: 500

 心から信頼の置ける世界というものを想像してみよう。そこでは真実があまねく行き渡り,判事も警官も錠前屋もゴシップコラムニストもお役ご免。人間社会は規律正しく,うんざりするほど退屈になってしまうだろう。
 人の心を読む機械ができると,そんな社会が現実になる。ただし,時代遅れのポリグラフ(ウソ発見器)では力不足だ。ポリグラフは人の考えを測っているのではなく,血圧や呼吸など思考の結果に生じる生理的な現象を手がかりに,当人がウソをついているかどうかを推定しているにすぎない。
 現在ではもっと優れた手法が可能になっている。ペンシルベニア大学のラングリーベン(Daniel Langleben)らは機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)を利用して,一連の質問に応答する被験者の脳を詳しく調べた。あるときには被験者に偽りばかりを答えてもらい,別の状況では真実を答えてもらった。これを互いに比較した結果,ウソをつくときに限って活性化する領域がいくつか見つかった。
 現在の脳画像スキャナーでウソを見抜くのは無理だが,被験者が進んで伝えようとしている単純な考えを言い当てるのなら十分に可能だろう。カーネギーメロン大学のジャスト(Marcel A. Just)はfMRIを利用して,それを実行した。だたし,少数の単純な概念に絞った実験だ。「12種類の概念について,被験者がそのうちどれを考えているかを80?90%の正答率で特定できた」という。また,明快な文章を読んでいる場合とあいまいな文を読んでいるときの違いや,動詞を思い浮かべているか名詞をイメージしているかの違いも,脳画像から判別できた。