特集:脳力増強の科学
画像が明かす学習の仕組み

小泉英明
200312

日経サイエンス 2003年12月号

5ページ
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 人間の脳機能に関する興味深い成果が数多く出ている。その背景には,身体を傷つけずに脳の形態や活動を見る技術の発達がある。代表的な技術には,小川脳機能研究所の小川誠二(おがわ・せいじ)所長が考案した「機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)」と私たちが開発した「光トポグラフィー」がある。
 fMRIは脳の深部まで測定できるが,被験者の頭を長時間固定する必要がある。これに対し,光トポグラフィーは測定できるのは大脳皮質だけだが,リアルタイムで計測でき,子供が自由に動き回っても大丈夫だ。2つの技術は補完し合いながら研究の現場に広まり,心理の中枢やバイリンガルの働き,計算をするときの活動など,これまで調べられなかったことが明らかになった。
 脳の画像化技術は介護の現場を大きく変えつつある。東北大学未来科学技術共同研究センターの川島隆太(かわしま・りゅうた)教授が,読み・書き・計算などの単純な学習によって,老人性痴呆症を改善させることに成功している。
 さまざまな脳科学の成果を教育に結びつける研究が世界的に活発になっている。日本では文部科学省の「脳科学と教育」に関する検討会(座長・伊藤正男理化学研究所脳科学総合研究センター特別顧問)が国としての取り組み方を提言した。科学技術振興機構が助成するプロジェクト研究がすでに始まっている。海外では,経済協力開発機構(OECD)教育研究革新センター(CERI)が日米欧の研究者が参加するプロジェクトを2002年4月に本格稼働した。
 OECDのプロジェクトでは,日本が調整役を務めるグループは生涯学習を担当している。脳梗塞などで傷ついた高齢者の脳が神経回路を作り直す仕組みの研究も進行中だが,さらに人間の洞察力やひらめき,記憶力,最終的には意欲の解明に取り組む予定だ。
 脳を究明するには,自然科学はもちろん,哲学や心理学などの多様な研究者との連携が欠かせない。脳の画像化技術がその架け橋になることを期待している。