ロボットから人間を読み解く
工学が明かす身体の巧妙さ

高西惇夫
200401

日経サイエンス 2004年1月号

6ページ
( 2.0MB )
コンテンツ価格: 611円 (10%税込)

「なぜヒューマノイドを研究するのか」。欧米の研究者や一般の人からこんな質問を受けることが多い。こんなとき私は決まって次のように答える。
 ヒューマノイドを通して人間を解明するのが目的だ。人間の身体構造は非常に複雑にできており,これだけの機構を機械システムで実現しようとするのは並大抵の技術では不可能だ。しかし,全体は無理でも部分的に人間と同じ構造や機能を実現できれば,ロボット工学の視点から人間を科学的に解明することになる。
 これはロボット研究者のほとんどが抱いている思いだ。
 そんな研究を続ける中で痛感するのが,人間の身体の巧妙さだ。例えば,自由度の数の多さがある。二足歩行できるヒューマノイドはひざが常に曲がった格好で歩く。人間がひざを曲げたままの姿勢でいるのはつらいし,ロボットでもエネルギー消費の観点からは非効率だ。それでもこんな姿勢をとる理由は,腰の位置を一定にして安定させるとともに,“特異姿勢”になるのを避けることにある。しかし,人間はそんなことは起こらない。余分な自由度が存在するからこそ多様で柔軟な動きができる。
 人間は究極のロボットだ。何とかロボットを人間に近づけたいと研究してきた。ヒューマノイドを研究すればするほど人間の巧みさが見えてきて,目標がさらに遠ざかってしまったという思いもする。しかし困難だからこそ,このテーマは多くのロボット研究者を惹きつけているのも事実だ。