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統合失調症(精神分裂病)は世界人口のほぼ1%が罹患するというよく知られた精神疾患だ。天才肌の芸術家や学者といったイメージに結びつきやすいが,発病した人々の多くはごく普通の生活を送ることができず,仕事に就けるまでに回復する人はごくわずかしかいない。
抗精神病薬は統合失調症の治療にとって不可欠だ。現在使われているのは神経伝達物質ドーパミンに作用する薬(従来型抗精神病薬)と,のちに登場した抗ドーパミンおよび抗セロトニン作用を備えた薬(非定型精神病薬)である。しかし,広く用いられている従来型は統合失調症の3つの症状のうち「陽性症状(妄想,幻覚など)」にしか効き目がなく,「陰性症状(自閉,感情の平板化など)」と「認知症状(思考の論理性を欠き,意味のない言葉を発するなど)」を抑える効果は期待できない。
こうした薬に代わって注目されているのが,グルタミン酸の作用に着目した新薬だ。グルタミン酸も脳内でドーパミンと似たような作用を示す神経伝達物質だが,ドーパミンよりも広い領域で働くことがわかってきた。しかも,グルタミン酸のNMDA受容体にはニューロン間の結合を強化して神経シグナルを増幅させる役割がある。こうした機能が阻害された状態は,統合失調症で生じる認知症状や陰性症状とも結びつく。
米国ではグルタミン酸の受容体をターゲットにした複数の薬がすでに臨床試験の段階に入っている。(編集部)