遺伝子でみた世界の人々

M. J. バムシャッド
S. E. オルソン
200404

日経サイエンス 2004年4月号

8ページ
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 ニューヨークやロサンゼルスを歩けば,人間の外見がいかに多種多様であるかがわかる。肌の色は乳白色から濃い褐色まで,髪質は細くてまっすぐなものから太くて針金のようなものまでさまざまだ。こうした身体的な特徴に祖先の出身地や文化などを加えて,いわゆる人種という分類をする。だが生物学的な観点からすると,人種という概念にはどのくらいの根拠があるのだろう?体の特徴を見れば,その人が青い目や巻き毛の遺伝子をもっていることはわかるが,それ以外の遺伝子について,外見から確かな情報を得られるのだろうか?
 この問題の難しいところは,人種に関する暗黙の定義が世界各地で異なっていることだ。例えば米国では“黒人”に分類される人が,ブラジルでは“白人”となり,南アフリカでは“カラード”と呼ばれる(カラードは黒人とも白人とも違うグループ)。
 それでもある病気に対する遺伝的な傾向をもとに集団分けを行なう場合に,一般的な人種の定義が役立つことがある。たとえば鎌状赤血球貧血症はアフリカ系や地中海系の人に多く,嚢胞性線維症はヨーロッパ系の人に多い。さらに,アフリカ系米国人にはある種の心臓病の薬が他の人たちよりも効きにくいことを示した例もある(この研究には,異論もある)。
 ここ数年,人種と病気の関係を探ろうと,世界中の人類集団から遺伝情報が集められてきた。現在はこれらのデータから,ときにトラブルの元となるような以下の3つの問題に対する答えが得られつつある。(1)遺伝情報にもとづいて特定の集団を他と識別したり,個人を特定の集団に分類したりできるだろうか。(2)そのような遺伝的な類似性に基づいて分けた人類集団は,現在広く使われている人種のグループ分けと一致するだろうか。(3)もっと実用的な問題として,いわゆる人種や遺伝学的なグループ分けをすることで,何か役に立つことがあるだろうか? たとえば,ある集団のメンバーは特定の病気にかかりやすいとか,薬の効きがよいといったような医療に役立つ情報が得られるだろうか。
 一般に,最初の質問についてはイエスといえる。2番目はノー,3番目は条件付きのイエスだ。