揺れない地震の脅威

P. サーベリ
200406

日経サイエンス 2004年6月号

7ページ
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 2000年11月,ハワイ島でマグニチュード5.7の地震が起きた。有名な観光名所がある場所だったが,誰も気づかなかった。地面が揺れなかったからだ。
 地中のプレート境界である断層に応力が蓄積し,両側がこすれ合うようにように動くと地震が起きることは,よく知られている。しかし近年,断層がすべっても地面が揺れない「揺れない地震」も存在することがわかってきた。普通の地震では,断層は1分足らずで一気に動くが,揺れない地震では数日から数カ月かけて,ゆっくりすべる。
 揺れない地震を甘くみてはいけない。ハワイのような火山島で断層がすべると,上にある山の斜面が動く。何らかの原因ではずみがつけば,大規模な地すべりにつながる。海中に大量の岩が流れ込み,押しのけられた水が大津波を起こして,付近の沿岸の町々に襲いかかる危険がある。
 音響探査で海底を探ると,過去にこのような山腹崩壊を起こした山の残骸が,あちこちで見つかる。1万年に1回は,世界のどこかでこうした破局的な山腹崩壊が起きるとの見方もある。
 揺れない地震を観測することで,こうした破局的な山腹崩壊の兆候をとらえ,前もって警報を出すことができるようになるかもしれない。山腹崩壊の危険が高い場合は断層に水を注入してわざと揺れない地震を起こし,破局的な山崩れの危険を下げるといった対策も考えられる。
 これまでに無いタイプの地震が発見されたことで,地震の理論も見直しを迫られている。揺れない地震の観測は始まったばかりだが,今後,巨大地震を起こす断層すべりの解明に,新たな発展をもたらしそうだ。