豊かさが招く不幸

B. シュワルツ
200407

日経サイエンス 2004年7月号

8ページ
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 今日の米国人の生活では,何かを選ぶ機会もその際の選択肢の数も以前よりずっと多くなった。ある程度までは,選択の機会があることで私たちの生活はより豊かになる。魅力的な選択肢があるのなら,その数が多い方がいいだろう。理屈の上ではそうなる。たくさんの選択肢の中から選びたいという人はその数が多ければ喜ぶだろうし,そうでない人はまだ食べたことのないコーンフレークの類が273種類もあると知っても気にならない。だが最近の研究は,心理学的にはこの仮定が間違っていることを明確に示している。確かに選択肢はないよりはあった方がいいが,多ければいいとは限らないのだ。
 これは大規模な社会動向とも一致する。ホープ・カレッジのマイヤース(David G. Myers)やエール大学のレーン(Robert E. Lane)などさまざまな社会学者が,人々の幸福感を調べている。それによると,米国のような豊かな社会では,選択肢や豊かさの増加にともない,実際には幸福感が低下していることがわかった。国内総生産(GDP)は過去30年間で2倍以上に増加したが,「非常に幸せ」と感じる人の割合は約5%ほど減少した。これは1400万人に相当する。さらに,抑うつ状態になる人が増えている。もちろん幸福感の低下を1つの要因で説明できるわけではない。だが,さまざまな調査から,選択肢の爆発的な増加が幸福感を低下させる重要な要因になっていることがわかってきた。
 豊かになり,やりたいことができるようになるにつれ,幸福感が薄れていくらしい。個人の自主性,選択,決定権が尊重される時代だというのに,なぜ不幸の度合いが増えてしまうのだろう?