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1990年代初頭に,一群の実に奇妙な疾患の原因が明らかになった。これらの疾患は症状はさまざまだが,ある共通点があった。遺伝性疾患であるにもかかわらず,親よりも子,子よりも孫と,世代を経るにしたがって病状が重くなり,発症年齢も若くなっていくのだ。これは,メンデルの遺伝の法則に合わない奇妙な現象で,原因となる遺伝子にいったい何が起きているのか,解明が待たれていた。
その原因は,遺伝子の中にある「反復配列」が異常に長くなることだった。反復配列は,3塩基や4塩基といった短い配列の繰り返しで,ヒトゲノムにはたくさんあることが知られている。患者の反復配列は健康な人よりも繰り返し回数が多く,その家系では世代を経るにしたがって,どんどん長くなってしまうのだ。さらには“遺伝子の中”とはいっても,タンパク質のアミノ酸配列を指定していない部分に反復配列が存在することもある。この場合,その遺伝子に書かれたタンパク質のアミノ酸配列情報をながめているだけでは,何が起きているのか決してわからないのだ。
私たちの研究を中心に,この奇妙な反復配列の振る舞いと,それがなぜ病気をもたらすのかを紹介しよう。