特集:アインシュタイン「奇跡の年」から100年
ひも理論 進化した世界像
ひも理論が描く多重宇宙

R. ブッソ
J. ポルチンスキー
200412

日経サイエンス 2004年12月号

11ページ
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 アインシュタインは後半生を,重力と電磁気力とを説明する統一理論の研究に捧げた。だが彼の試みは時代から先駆けすぎ,失敗に終わったとされる。アインシュタインの夢は後年の物理学者たちに引き継がれ,重力とそれ意外の力を統一的に説明する理論の模索が続いている。もっとも有力な候補として注目されているのが「ひも理論」だ。
 ひも理論では,アインシュタインが提唱した4次元時空を超え,さらに6次元が存在すると考える。そしてこの余剰次元の形によって,どんな物質が存在し,どんな物理学法則が成立するかが決まるという。だが,その余剰次元の形はどのように決まるのか。 
 ひも理論の代表的な研究者である筆者のブッソとポルチンスキーは,驚くべき答えを提示した。余剰次元の形を決めるのはアインシュタインの方程式だが,その解は1つではない。理論的に実現可能な構造は10の150乗に上り,そのすべてが宇宙のどこかで実現しているというのだ。
 彼らの説によると,宇宙は膨張を続ける無数の泡でできており,1つ1つの泡の中では異なる物理法則が成り立っている。私たちが見ているこの宇宙は,特に人間の生存に適した泡の中の,ほんの片隅に位置している。
 ひも理論が理論的にとり得る解を,余剰次元を決める様々なパラメーターを様々に変えながら描くと,多次元の複雑な山脈の風景が描ける。そこに描かれた谷の1つ1つが,宇宙の泡の1つ1つに対応する。きわめて長い時間でみると,宇宙の泡は1つの谷から別の谷へのジャンプを繰り返している。宇宙の始まりとされるビッグバンも,この辺りの泡が一番最近に起こしたジャンプに過ぎない。
 アインシュタインのアイデアをはるかに超えた多重宇宙が正しいかどうかは,まだわからない。観測によって答えが出るのは,まだしばらく先になりそうだ。