12ページ
( 1.9MB )
コンテンツ価格: 713円 (10%税込)
「コンピューターとブラックホールの違いはなんだろう?まるでジョークみたいだが,これは今日の物理学における最も深遠な問題の1つなのだ」
こんな風に記事は始まる。そしてつい最近まで,この答えは「コンピューターは結果を出力するが,ブラックホールは出力しない」というものだった。
最新の量子情報理論によれば,半導体のチップだけでなく,あらゆる物体が計算している。石ころも,人間も,水爆も,宇宙も──。物体はそれ自身を構成する基本粒子の位置と速度によって情報を記録し,粒子が相互作用するたびにその情報を書き変える。時間がたつにつれて物体が変化するというのは,その物体が自らの構造を計算するプロセスだ。物体は何でもコンピューターなのだ。
だがもしそうだとしても,ブラックホールだけは例外だと思われていた。ブラックホールに落ち込んだ物体は2度と戻ってこず,結果が出力されないからだ。車椅子の物理学者ホーキングは70年代に,ブラックホールは完全にブラックではなくてグレーで,少しずつ光を放射して蒸発していくことを看破した。だが彼はその放射は完全にランダムで,落ちた物体の情報は失われてしまうと考えていた。
しかし近年,情報理論と量子力学が結びついた量子情報科学の登場によって,こうした見方が覆されつつある。近年,急速に発展してきた。ブラックホールが情報を放出する仕組みが次々と提唱されている。どれが正しいのか決着はついていないが,ホーキングも自説を撤回したようだ。
宇宙全体をコンピューター,それもただのコンピューターではなく量子コンピューターと見ることは,物理学上の様々な疑問点に,新たな光をなげかける。宇宙がなぜ今のような形になったのか?宇宙の地図はどれくらい正確に描けるのか?といった疑問だ。また相対性理論と量子力学という現代物理学の2大金字塔を結び付けると期待される「量子重力理論」も,こうした考えと深く結びついているに違いない。