インフルエンザの脅威
1918年の殺人ウイルスを追う

J. K. タウベンバーガー

200503

日経サイエンス 2005年3月号

12ページ
( 2.2MB )
コンテンツ価格: 713

1918?1919年,人類史上最悪のインフルエンザが世界を襲った。スペイン風邪と名付けられたこのインフルエンザによる死者は,世界で2000万?4000万人と推定される。15?35歳の若年層の死者が多かったことや,死後解剖で肺に多量の出血が認められたことなどなどから,スペイン風邪が通常では考えられないような強い毒性と感染性を持っていたことがうかがえる。
 このウイルスにはどんな特徴があるのか。また,どこでどのようにして生まれたのだろうか。著者らはウイルスの性質と起源を調べるために,アラスカの凍土に埋葬された遺体から1918年のパンデミックウイルスに感染した組織片を取り出し,ゲノム情報をもとにウイルスを再現することに成功した。
 ウイルスの感染防御に最も重要な赤血球凝集素タンパク質(HA)に着目し,1918年ウイルスのHA遺伝子を調べたところ,このHA遺伝子は鳥ウイルスに直接由来するものではないらしいことがわかった。おそらく中間宿主あるいはヒトに伝播したのちに毒性や感染性が高まったと考えられる。とはいえ,1918年ウイルスが鳥インフルエンザウイルスに起源を持つ可能性は高い。野生の鳥には影響のないウイルスが,どのような道筋をたどって進化し,ヒトに感染するようになったか。それは依然として不明のままだ。