バンデミックは再来する
鳥インフルエンザに隠された殺人鬼の影

堀本泰介
河岡義裕
200503

日経サイエンス 2005年3月号

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かつては鳥インフルエンザウイルスはヒトには感染しないと言われていた。しかし,1997年に香港でH5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスが家禽からヒトに感染し,6人が死亡。これ以降,鳥ウイルスのヒトへの感染が相次いでいる。これまでにベトナムとタイで合計47人の感染(うち34人死亡)が確認された。今や「鳥のインフルエンザウイルスはヒトに直接感染する」という見方は,事実として認識されるようになった。このことは,H5N1鳥ウイルスがパンデミックウイルスに変貌する危険性を警告している。
 鳥インフルエンザウイルスはカモなどの野生の水鳥を自然宿主としているが,野鳥ではほとんど症状を示さない。このウイルスがニワトリなどの家禽に感染すると,呼吸器や消化器で軽い症状を示すようになるが,死に至ることはない。ところが,ごくまれに高い病原性を示し,全身の臓器でウイルスが増殖してニワトリを殺すことがある。これが高病原性鳥インフルエンザウイルスだ。
 今回ヒトに感染したH5N1ウイルスの致死率は70%を超えている。このウイルスがヒトからヒトに伝播するようになった場合,この高い致死率を示し続けるかどうかはわからないが,最悪の場合を考えて,ワクチン開発や抗インフルエンザ薬の備蓄を急がなければならない。
 安全な不活性化ワクチンを作るには,流行中のウイルスと同じ抗原性を持ち,鶏卵でよく増殖する弱毒ウイルスが必要だ。しかし,現在流行しているH5N1ウイルスはすべて強毒であり,鶏卵での増殖性も低い。そこで,著者らが開発したプラスミド(環状DNA)を用いたリバースジェネティクス法という技術により,ワクチンに適した人工ウイルスを作製する研究が進んでいる。この試作ワクチンは日本および欧米で近々臨床試験に入る予定だ。