人類進化の定説を覆す
小さな原人の発見

K. ウォン(SCIENTIFIC AMERICAN 編集部)
200504

日経サイエンス 2005年4月号

10ページ
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 2004年,インドネシア・フローレス島の洞窟を発掘していたオーストラリアとインドネシアの研究者チームが身長1m足らずの小さなヒトの骨を発見したことをNature誌で発表した。このヒトの仲間は今からほんの1万3000年前まで生きていたという。
 この発表は古人類学界に衝撃を走らせた。ホモ・サピエンスは,ヨーロッパのネアンデルタールとアジアのホモ・エレクトスが絶滅して以降,ほかにはヒトの仲間がいないまま,過去2万5000年のあいだ地球を独り占めにしていたものと思われていた。しかもこれほど小型のホミニド(人類)は,ホモ・サピエンスが出現するはるか以前の300万年近く前に生きていたアウストラロピテクス類(ルーシーやその仲間)の化石でしか存在が知られていなかった。
 化石を分析したオーストラリア・ニューイングランド大学のブラウン(Peter Brown)らは,この人骨を新たなホモ属の一員と結論づけ,ホモ・フロレシエンシスと命名した。脳の大きさはグレープフルーツほどだが,化石が見つかった洞窟からは高度な石器も発見されており,現生人類に匹敵する認知能力をもっていた可能性もうかがえる。
 一方,ホモ・フロレシエンシスを新種とする見方に異を唱える研究者もいる。オーストラリア・アデレード大学の古人類学者ヘンネバーグ(Maciej Henneberg)は,見つかった人骨の特徴が小頭症という病気で説明できると反論。これに対してブラウンは,ホモ・フロレシエンシスの小型化はいわゆる島嶼化によるもので,環境への適応だったと述べる。
 また,小柄で脳が小さく,大腿骨頸部が長いといった特徴は,ホモ・エレクトスではなく,ホモ属の初期のメンバーであるホモ・ハビリスの系統に連なる祖先を暗示するという見方もある。ミシガン大学のウォルポフ(Milford H. Wolpoff)は,さらに時代をさかのぼり,彼らがアウストラロピテクスから枝分かれした可能性もあると指摘する。こうした謎を解明するには,今後の発掘成果を待たねばならない。(この号の「素顔の科学者たち」でブラウンの紹介記事を掲載しています)。