夢追い人
ニコラ・テスラの発明人生

W. B. カールソン
200506

日経サイエンス 2005年6月号

8ページ
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コンテンツ価格: 600

「交流モーターの父」として知られ,磁束密度の単位にその名を残すニコラ・テスラ(1856?1943)の人生は奇妙な理想主義に彩られている。エジソンと並び称される大発明家が追い求めた夢とは何だったのか。
 テスラはセルビア出身の米国人発明家・研究者で,交流機器の基礎となる回転磁場を考案した。発電機や変圧器,モーターなど,多くの機器はこの基礎の上にある。また,電子機器に広く使われている高電圧誘導コイル「テスラコイル」を発明した。
 テスラによる交流モーターの特許はウェスチングハウス社に売却され,3相60ヘルツの新しい交流システムの開発につながった。しかしテスラはこの技術が完成する前にウェスチングハウス社に飽き足らなくなって同社を去っていた。理想的な交流モーターを発明するまではともかく,その後の細かな事には興味がなかったのだ。
 その後,テスラは特許料収入を元手にニューヨークに研究所を構えた。世間と投資家の注目を集めるため,自ら「風変わりな天才」を装うようになる。演出の達人でもあり,センセーショナルな記事を狙う記者たちに格好の話題を提供した。だが,宇宙人と無線交信したとか,殺人光線を開発したといった突飛な発言が批判も招いた。
 技術的に重要な基本概念を数多く考案したが,実用的な製品に仕上げることはほとんどしなかった。金銭に疎く,最後は貧困のうちに人知れず世を去った。しかし,彼が工学技術に大きく貢献したという事実は揺るがない。この異才の発明家は自ら発見した基本概念の美しさに陶酔することがあまりにも多く,発明の実際的な細部を仕上げるのは気が進まなかったのだ。