宇宙の調べは狂っている?
背景放射の奇妙なズレ

G.D.シュタルクマン
D.J.シュワルツ
200511

日経サイエンス 2005年11月号

10ページ
( 3.9MB )
コンテンツ価格: 700

 初期宇宙の姿を今に伝える宇宙マイクロ波背景放射(CMB)。その解析データに理論と矛盾する点が見つかった。周波数の低い“低音”成分が弱く,ピッチも狂っているのだ。理論に誤りがあるのだろうか?
 現在の標準的な宇宙モデルは「インフレーション・ラムダ・冷たい暗黒物質モデル(ΛCDMモデル)」と呼ばれ,宇宙の多くの性質を非常にうまく説明できる。しかし,マイクロ波背景放射の観測データを解析した結果,重大な矛盾点が浮かび上がった。
 マイクロ波背景放射の温度ゆらぎは「モード」に分けて解析される。これはオーケストラの演奏を楽器ごとに分けて聴くことに相当する。背景放射をオーケストラにたとえると,その演奏を乱しているのは低音を担うコントラバスとチューバで,音程が外れているほか,その音量も異常なまでに小さい。これはインフレーションモデルの普遍的な予言と矛盾する。
 この謎に対する答えとしては3つの可能性が考えられる。第1は不自然な観測結果は単なる統計的偶然にすぎないという可能性。第2は観測に伴って生じた見かけの効果にすぎないという可能性。そして最後に考えられるのは,観測データが正しく,理論のほうに重大な欠陥があるという可能性だ。
 実際の観測データは本来の背景放射以外に,太陽系外縁部に存在するガスなどの影響を受けている可能性があるようだ。しかしそれを認めても,インフレーションモデルでは説明しきれない要素がなおも残る。