モーフウエア
変幻自在なプロセッサー

R. コッホ
200511

日経サイエンス 2005年11月号

8ページ
( 1.3MB )
コンテンツ価格: 600

 柔軟性か,それとも高速処理か。マイクロプロセッサーの設計者は,どちらを取って,どちらを切り捨てるか,常にその選択に迫られている。パソコンに搭載されている汎用プロセッサーはさまざまなソフトウエアからの命令を実行し,グラフィックスから複雑な計算までどんなタスク(処理)もこなしてくれる。だが,その柔軟性の前に処理速度は犠牲になっている。一方,グラフィックスやサウンドカード向けといった1種類のタスクに最適化されたASIC(特定の用途に向けて設計・製造された集積回路)は処理速度が非常に速いが,融通は利かない。
 こうした汎用プロセッサーの柔軟性とASICの処理速度を兼ね備えたプロセッサーがある。それが「モーフウエア(morphware)」だ。タスクに応じて回路を再構成して,最適化することができる。市販されているものでは,フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ(FPGA)と呼ぶプログラミング可能な集積回路がそうだ。論理演算を実行するブロックと,ソフトウエアによって配線を変えられるブロックとで構成されている。FPGAを最適化すれば,データの暗号化や軍用の自動標的認識,データ圧縮などを10?100倍ほど高速化でき,強力な情報セキュリティーや高速での標的捕捉が可能になる。
 とはいえ,その能力には限界がある。動作中に処理機能を変更するには,論理演算を実行する素子(ゲート)の働きを変えるのではなく,多数のトランジスタからなるブロック間の配線を変更しなければならず,これにかなりの時間が取られてしまうのだ。そのうえ,回路の集積度が低いため,演算数と処理速度に制約が生じてしまう。
 ここ2?3年,いくつかの研究グループが新しいタイプのモーフウエアプロセッサーの研究に取り組んでいる。層状の磁性体で再構成可能な論理ゲートを作り出そうという試みだ。磁性論理ゲートの長所は,電源を切っても記憶した情報が消えず,動作中に再書き込みをする必要がないことにある。情報が不揮発性なので消費電力を低減できるだけでなく,1つの素子で違う論理機能を実現することもできるだろう。