質量の起源に迫る

G. ケイン
200511

日経サイエンス 2005年11月号

9ページ
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質量は物質に備わった当たり前の性質のようだが,科学的に掘り下げて考えると謎だらけだ。そもそも素粒子の質量はどのようにして生じるのか。なぜ素粒子は固有の質量を持っているのだろうか?
 理論的には,素粒子は宇宙全体を満たしている量子場「ヒッグス場」と相互作用することで質量を持つようになると考えられている。ヒッグス場が実在するなら,それに伴う粒子,ヒッグス粒子(ヒッグスボソン)が存在しなければならない。現在,米国立フェルミ加速器研究所では現在,衝突型加速器テバトロンを使ってヒッグス粒子の探索が進んでいる。2007年にはジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)が稼働する予定だ。ヒッグス場の存在を示す直接的な証拠が近いうちに得られるだろう。
 ヒッグス粒子が発見されれば,ヒッグス機構が質量をもたらしていることを検証できるだけでなく,素粒子物理学の「標準モデル」をどう拡張すれば暗黒物質(ダークマター)の正体といった謎が解けるかが見えてくる。
 標準モデルの拡張版である「超対称標準モデル」では,それぞれの素粒子について,それと極めて近い関係にある「超対称粒子」が存在する。このうち「最も軽い超対称粒子(LSP)」は暗黒物質の最有力候補だと考えられる。
 また,標準モデルが記述する粒子は3つの「世代」に分類され,それに対応する別の世代の粒子とまったく同じ相互作用をするのに,質量だけが異なる。質量の起源に肉薄すれば,素粒子になぜ3つの世代があるのかという根本的な問題にも解決の糸口が見えてくるだろう。最終目標は,質量の値に関して場当たり的な仮定をしたりパラメーターをいじったりしなくても,すべての粒子の存在とその質量比が必然的に導かれるような理論を確立することだ。