胸部大動脈瘤
破裂の危機を避けるには

J. A. エレフテリアデス
200511

日経サイエンス 2005年11月号

9ページ
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 大動脈瘤(りゅう)は心臓から血液を送り出す大動脈にできるこぶ状の膨らみだ。自覚症状のないまま拡大し,突然破裂したり解離(血管壁が2層に剥がれて血液が漏れ出る)を起こすという命にかかわる病気だ。患者や医師にとっては時限爆弾のような疾患と言える。治療方法としては,動脈瘤のできた部位を人工血管に置き換える外科手術が有効だが,この手術自体が大きなリスクを伴うため,破裂の危険があると思われる大きさに動脈瘤が拡大するまで,医師は手術を勧めないのが普通だ。
 患者にとっても医師にとっても最も気がかりなのは,動脈瘤がどれくらい大きくなると危険なのか,またどの程度の速度で動脈瘤が拡大していくかだ。これまで医師が経験に頼って判断してきたが,予測よりも早く解離を起こす例などもあり,手術時期の決定は難しかった。
 著者らエール大学のグループは,3000人にのぼる患者の10年分の経過記録をデータベース化し,詳細に検討した。その結果,胸部大動脈瘤の場合,直径が6cmを超えると,破裂・解離の危険が急速に高まることが確認された。また,マルファン症候群という病気を抱えている人は大動脈瘤ができやすいが,それだけでなく,他の患者に比べて動脈瘤の拡大スピードが速いこともわかった。このデータベースは,適切な手術時期や大動脈瘤の成長速度を知り,悪化しそうなケースを見分けることに大いに役立っている。
 大動脈瘤ができる原因はわかっていないが,患者の家族歴を調べると,何らかの遺伝的要因があることが想像できる。血管壁の弾性繊維やそれをつなげるタンパク質の遺伝子に欠陥が生じている可能性も考えられる。実際,ある種の患者は,動脈壁の弾性を保つのに必要なタンパク質を壊すメタロプロテイナーゼという酵素の活性が高まっていることも確認されている。今後はこうした遺伝子をターゲットにした治療法も開発できるかもしれない。