水滴で描く超微細回路
期待高まる液浸リソグラフィー

G. スティックス(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)
200511

日経サイエンス 2005年11月号

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半導体チップ微細化のカギは意外なところに潜んでいた。「液浸リソグラフィー」という新技術は水を利用する単純なアイデアだ。
 イタリアのフィレンツェで活躍した物理学者アミーチ(Giovanni Battista Amici)は,顕微鏡の試料に水滴をたらすと解像度が高まることを発見した。それから165年を経たいま,世界の半導体産業がアミーチの手法を採用しようとしている。
 半導体チップの回路を微細化するには,光源の波長を短くして,より精密にパターンを投影できるようにするのが定石だ。しかし,波長157nmの光源を使う露光装置の開発は暗礁に乗り上げた。フッ化カルシウム製レンズの開発がうまくいかなかったのだ。
 道が開けたのは2002年の夏,半導体研究開発コンソーシアムのセマテックが主催した技術会合でのこと。半導体受託生産最大手であるTSMC社(台湾)のリン(Burn Lin)が,すでに実用化が進んでいる波長193nmの装置に液浸リソグラフィーを導入すべきだと提案した。
 露光装置のレンズとウエハーの間のすき間を純水で満たす。こうすると装置の開口数を大きくでき,これに伴って解像度が上がるので,より微細な回路を描ける。焦点深度も改善する。
 以降,業界と大学・研究機関の協力によって技術課題が克服され,2009年に商業生産に適用される見通しがついた。その時点ではチップ上のトランジスタどうしを隔てる間隔はわずか45nmに狭まるだろう。C型肝炎ウイルスよりも小さな驚異の水準だ。
 回路寸法が物理的限界に近づくにつれ,トランジスタを流れる電子を制御するのは難しくなってきた。そうしたなかで技術はなおも進歩し,ムーアの法則を維持してきた。そこに1つのテーマが見えてくる。大きな技術課題を克服するのは,ともすれば最も単純な方法であるということだ。