賢くなったWi-Fi
最新無線LAN技術

A. ヒルズ
200601

日経サイエンス 2006年1月号

10ページ
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スターバックスコーヒーや空港のラウンジ,そして自宅でも無線接続を利用する人々が増えている。“いつでも,どこでも”インターネットに接続できるのがたまらない魅力のようだ。Wi-Fi(ワイファイ;無線LANの標準規格IEEE802.11の名称)の高速通信を利用すれば,電子メールを即座に相手に届けることができるし,ウェブページは瞬時に画面に表示される。Wi-Fiなら,いつでもどこでも使える携帯電話に匹敵する移動性と自由度を,あらゆるモバイル機器に与えられるのだ。

米国にある通信産業専門の調査会社,ピラミッドリサーチは,2008年までに全世界のWi-Fiユーザーが2億7100万人を上回ると予測している(そのうち1億7700万人が米国人)。別の調査会社,米国のインスタットによれば,全世界でWi-Fi関連機器の売上高は推定で年間約30億ドルにのぼるという。

しかし,他ならぬWi-Fi人気が新たな問題を引き起こしている。今後,さらに利用が増えれば,ネットワーク上を行き交う音声や文書,画像などのデジタルデータが膨大になり,Wi-Fiネットワークでは処理できなくなるかもしれない。通信速度は低下し,遅延時間が長くなって,モバイル機器は身動きが取れない状況に陥ってしまう。

そもそもWi-Fiが適切に機能したとしても,無線通信の接続速度はデジタル加入者線(DSL)やケーブルモデムのような有線の高速接続には及ばない。銅線や光ファイバーの通信速度に無線が太刀打ちできる望みはないのだ。セキュリティー面でも有線にかなわない。無線に依存するWi-Fiなどは有線と同等のセキュリティーを保証できないだろう。無線通信は信号を近くで傍受される危険を常にはらんでいるためだ。

1993年,私はカーネギー・メロン大学で「ワイヤレス・アンドリュー」の構築を指揮していた〔ワイヤレス・アンドリューは,初の大規模な無線ローカルエリアネットワーク(LAN)で,今日のWi-Fiネットワークの原型〕。この時点で,すでに無線通信に関するこうした問題は明らかになっていた。1999年に完成したワイヤレス・アンドリューは,現在ではキャンパス全体を結んでいる。

私たちがカーネギー・メロン大学で無線ネットワークに着手して以来12年間,さまざまな問題が起きた。Wi-Fiの利用が著しく増加したため,いくつかの難しい状況が生じたが,解決していく中でかなりの前進もあった。まずWi-Fiがどのように動作するか,発展した無線ネットワークとはどんなものかを説明していく。