次世代抗体の主役は?

西村絵(日経サイエンス編集部)
200601

日経サイエンス 2006年1月号

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抗体医薬が普及した現在,世界中の製薬企業は次世代の抗体の探索を急ピッチで進めている。ベルギーのアブリンクス社が開発する「ナノ抗体」もその1つだ。

日本勢も負けてはいない。
中外製薬が開発し,今年1月15日発行の米国血液学会誌bloodに報告した抗体は,小さな抗体医薬に新たな道を開いたものとして注目を集めている。中外製薬が開発したのは血小板増多因子(TPO)受容体に対するアゴニスト抗体で,通常の抗体の1/3程度の大きさだ。抗体がTPO受容体に結合する部位の重鎖(H鎖)と軽鎖(L鎖)の4部位をつなげて作った。これまでTPO受容体に対するフルサイズのアゴニスト抗体の存在も知られてはいたが,活性が弱く十分な効果が認められなかったという。そこで小さく設計したところ,2量体化するTPO受容体をうまくつなぐことで,アゴニスト作用を促進させることに成功した。

こうしたナノ抗体の研究が進む一方で,協和発酵バイオフロンティア研究所の設楽研也(したら・けんや)部門長は「現在のモノクローナル抗体の効果を高めれば低容量で済むはずだ」と強調する。

同社の研究所では抗体の糖鎖の1つを取り除くと抗体の効果が動物実験で約100倍に上がるということを発見,2003年,専門誌に報告している。ここでいう抗体の効果とは,抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)。抗体が抗原と結合したときにナチュラルキラー(NK)細胞などのほかの免疫細胞を呼び寄せ,抗体と結合。この抗体を通じて抗原のある細胞を殺す仕組みだ。具体的にはフコースが抗体に結合するために必要な酵素遺伝子をノックアウトした細胞を使って“フコース除去抗体”を作成した。

さらに革新的な抗体作りを目指しているのはキリンビールだ。抗体といえばモノクローナル抗体という流れとは一線を画し,ポリクローナル抗体の開発に力を入れている。狙いは感染症治療薬だ。

キリンの研究の特徴はウシ(乳牛)に抗体を作らせる点。クローンウシの開発技術と動物にヒトの抗体を作らせる技術を組み合わせた。2002 年,ヒトのポリクローナル抗体を作るウシができた。さらに2004年には牛海綿状脳症(BSE,狂牛病)を引き起こすプリオン遺伝子をノックアウトさせたクローンウシ作りに成功した。現在,どのような抗体ができて,薬効がどの程度あがるかについて,動物実験で確認中だ。

いずれもヒトに効果があるかどうか不明で今後の臨床試験の行方を見定める必要がある。次世代抗体の主役が見えるにはもう少し時間が必要だ。