バーチャル考古学
シミュレーションで迫る古代社会

T. A. コーラー
G. J. グマーマン
R. G. レイノルズ
200601

日経サイエンス 2006年1月号

10ページ
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人類の歴史のうち,文書を通して知ることができるのはほんのわずかだ。残りは考古学的資料が主な情報源となる。考古学者は遺跡や人工遺物,遺体などを調べ,何百年さらには何千年も前の人間社会の様子を正確に描き出そうと苦心を重ねてきた。だがこうした遺物から,社会の形成と変化の過程を知ることは難しい。

400万年前のヒト科の祖先は直立歩行する霊長類の小さな集団で,石器ももたず言葉もほとんどなかった。そこから現在の地球に存在する社会や文明に到達するまでには,さまざまな因果関係や偶発的なできごとが鎖のようにからみあっている。現在もこれを解明しようとする研究が続けられている。

コンピューターが登場すると,考古学者たちは先史時代の人間を調べる手段としてシミュレーション実験を利用するようになった。考え方は単純だ。人口増加や資源利用などの変遷をまねるようコンピューターをプログラムして,その予測結果と考古学的な記録がどの程度一致するかを調べる。

最近は新しいコンピューター言語によって,古代社会に関してより詳細なシミュレーションが可能になった。Javaなどオブジェクト指向のプログラミング言語なら,相互に影響しあう多数のエージェントを含んだモデルを作れる(エージェントとは判断機能をもち,自らの行動を制御できるプログラム)。

このモデルは,ある土地に点在して暮らすそれぞれの家族をエージェントとして表現する。エージェント間の相互作用を通じて,協調関係の成立や資源・情報の交換をシミュレーションする。各エージェントの行動を指定するルールをあらかじめ組み込んではあるが,エージェントは学習によって新たな行動を獲得することも可能だ。