創薬の新発想
標的分子の別の顔を狙え

T. ケナキン
200602

日経サイエンス 2006年2月号

9ページ
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現在使われている薬の約50%は,細胞膜に埋め込まれた「Gタンパク質共役型受容体(GPCR)」というタンパク質をターゲットにしている。この受容体は細胞膜を蛇行して7回出入りするので,7回膜貫通型受容体とも呼ばれる。細胞外の部分は,細胞に送られてきた分子シグナルを受信するアンテナの役割を担う。一方,細胞の内側の部分は,細胞膜のすぐ下にあるGタンパク質というシグナル処理装置を活性化し,細胞内情報伝達経路を始動させる。
 
細胞表面にはさまざまな受容体があるが,なかでもGPCRファミリーは生体のあらゆる細胞にあって,心拍や消化,呼吸,脳の活動に至るまで,生命維持に不可欠な身体機能のほぼすべてに関与している。それだけにGPCRを標的とする薬は,高血圧,うっ血性心不全,潰瘍,ぜん息,不安症,アレルギー,ガン,偏頭痛,パーキンソン病などさまざまな病気の治療に使われている。
 
従来,GPCR標的薬物が作用するメカニズムは2通りしかなかった。1つは,GPCRの“アンテナ領域”(活性部位)に結合して,神経伝達物質やホルモンなど天然のシグナル分子が結合したのと同様の効果を発揮させる薬(作動薬,アゴニスト)。もう1つは,天然のシグナル分子がアンテナに及ぼす作用を阻害する薬(拮抗薬,アンタゴニスト)である。
 
ところが,ここ15年間ほどの研究から,これまで知られていたGPCRの活性部位とは別の場所に結合する化合物でも,GPCRの活性を調節できることがわかってきた。その1つは「アロステリック」という性質を利用する方法だ。これは,受容体に分子が結合すると,結合部位とは別の場所の形が変わり,活性が変化するという性質で,こうした特性を持つ分子を使ってGPCRの構造を変え,本来のシグナル分子の結合を妨げることが可能だ。
 
実際にこのタイプの薬物がいくつか開発され,2つのHIV治療薬で臨床試験が始まっている。また,2つの異なる受容体を結合させた複合受容体を作り,個々の受容体では結合できなかったシグナル分子に反応させる方法なども検討されている。