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生命が地球に誕生して以来,約40億年,進化は時として驚くべき変貌を生物にもたらした。最もめざましい変貌の1つが,水中にすむヒレを持った魚類から,指を備えた脚で大地を踏みしめる動物が生まれてきたことだろう。つまり,四肢動物の誕生だ。以来,カエルなどの両生類から鳥類とその祖先である恐竜,トカゲやヘビ,カメ,そして人類をはじめとする哺乳類まで,さまざまな四肢動物が現れた。
岸に上がろうとした四肢動物は,それまでどの脊椎動物も経験したことのない困難にぶつかったはずだ。ヒレを四肢に変えて歩けばいいという単純な問題ではなかった。陸上は水中とは根本的に異なる環境だ。呼吸をする,音を聞く,重力に対抗するなど,数えきれないほどの変革が体に生じなければならなかった。
15年ほど前まで,魚類から四肢動物へと進化する過程で,何がどういう順番で起きたのかは,化石がないため,ほんのわずかしかわかっていなかった。有名なイクチオステガはすでに完全な四肢動物で,魚類と四肢動物の途中段階の化石がまったくなかったのだ。
手掛かりが少なかったので,推測に過ぎない仮説しかなかった。50年以上前にハーバード大学の古脊椎動物学者ローマー(Alfred Sherwood Romer)が提唱したもので,乾燥化して水が干上がり,陸に出る羽目になった魚のうち,筋肉質のヒレをもつものが別の水たまりまで体を引きずっていくうちに,より遠くの水場までたどり着ける魚が自然選択で生き残り,ついにはヒレを四肢に進化させた動物が現れたという説だ。言いかえると,ヒレから四肢を進化させる前に魚類は水から出たという考え方だ。
しかし,初期の四肢動物と思われるアカントステガの非常に状態の良い化石の発見をきっかけに,この15年でヒレから四肢への転換をたどることのできる化石がたくさん発見された。そのおかげで,四肢動物の初期進化やその多様性,分布,生態などについての従来からの考えは大きく変わった。最初に起きた変化は,移動に関するものではなく,呼吸に関してだった。浅瀬で水中生活をしている魚が,エラだけでなく肺でも呼吸を始め,四肢は頭を水面から出すときに使われたようだ。