サヴァン症候群
その驚異の能力を探る

D. A. トレッファート
D. D. クリステンセン
200603

日経サイエンス 2006年3月号

7ページ
( 1.4MB )
コンテンツ価格: 611円 (10%税込)

「サヴァン症候群」は1887年にダウン(J. Langdon Down)が初めて名付け,紹介した疾病だ。彼はこの病気と驚異的な記憶力とのかかわりを指摘し,症例としてギボン(Edward Gibbon)の『ローマ帝国衰亡史』を一字一句たりとも間違えずに暗唱できた患者を取り上げた。

ほとんどのサヴァン患者は音楽や芸術,数学といった特定の分野で飛び抜けた記憶力を持つが,キム・ピーク(Kim Peek)という54歳の男性の場合は違う。彼は驚異的な記憶力そのものが1つの技能となっている。友人たちは彼のことを「キムピューター」と呼んでいる。実際,彼はインターネットの検索エンジン並みの速さで頭の中の情報を引きだせる。彼はトム・クランシー(Tom Clancy)の小説『レッドオクトーバーを追え』を1時間25分で読み終えた。4カ月後にこの本について質問されると,作中に登場するロシア人通信士の長い名前を答え,その人物について書かれたページをあげて,数節を一字一句間違えずに引用してみせた。

キムは1歳6カ月の頃から読んでもらった本を暗記するようになった。今では9,000冊の本を暗記している。1ページを8?10秒で読み,記憶した本は頭の中の“ハードディスク”に書き込み済みだとわかるように,本棚に上下を逆にして並べている。