物質を扱う新たな手
量子ビームテクノロジー

吉川和輝
200605

日経サイエンス 2006年5月号

8ページ
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「量子ビームテクノロジー」とも呼ぶべき新技術が台頭している。各種の加速器や原子炉によって作り出したX線や中性子などのビーム,あるいはレーザーをさまざまな物質やタンパク質をはじめとする生体物質に照射して,その細かい構造を調べたり,微細な加工をしたりする技術だ。

自動車メーカーは放射光というX線を観察道具に使って,排ガス浄化触媒が長持ちするように原子レベルで形を設計している。イオンビームという強い放射線を使って樹脂材料を加工し,燃料電池用の膜を作る試みも進んでいる。また,微細加工の限界に近づいているとされる半導体の開発では,X線や電子線などのビームをどう使って狙い通りの構造を作るかをめぐり,世界の半導体企業や大学がしのぎを削っている。ガン細胞に加速器のビームを照射して治療するという用途にも大きな期待が集まる。

これまで放射線利用などと呼ばれてきた技術の流れだが,ナノテクノロジーやバイオ技術のニーズと,加速器を使ったビーム技術の向上が相まって,量子ビームテクノロジーは先端的な研究開発に欠かせない道具となりつつある。日本をはじめ各国で高性能の加速器の建設が進むなど,新技術をめぐる日米欧の国際競争も激しくなっている。