宇宙最初の100万分の1秒

M. リオーダン
W. A. ザイツ
200608

日経サイエンス 2006年8月号

12ページ
( 2.6MB )
コンテンツ価格: 713

米国立ブルックヘブン研究所で,この5年間,何百人もの科学者が宇宙誕生直後の状態を再現しようと試みてきた。実験に使うのは相対論的重イオン衝突型加速器(Relativistic Heavy Ion Collider)。頭文字をとって「RHIC(リック)」と呼ばれる新鋭の加速器だ。ほぼ光速で互いに反対方向に飛ぶ金の原子核どうしを正面衝突させ,ビッグバンから数マイクロ秒間の超高エネルギー状態をシミュレーションする。

そのころ宇宙は,クォークやグルーオンという粒子が激しく動き回って衝突を繰り返す「クォーク・グルーオン・プラズマ」という超高温超高密度の状態だった。温度は数兆度,つまり太陽中心部の10万倍以上に達するほど熱く,微量に含まれる光子や電子などの小質量の素粒子が“スパイス”になっていた。

実験前,クォーク・グルーオン・プラズマはガスのようなものだと予想されていたが。ところが実際には,粘性がほとんどまったくない理想の液体のように振る舞うことが判明した。この結果に物理学者は驚いた。これまで築き上げてきた宇宙初期のモデルは再考を迫られることになる。クォークとグルーオンの振る舞いを探るため,これまで多数のシミュレーション実験が実施されているが,計算する際に仮定していた条件も見直す必要が出てきた。