100m級超大型望遠鏡に挑む

R. ギルモッツィ
200608

日経サイエンス 2006年8月号

10ページ
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南米チリの高地にあるパラナル天文台。夜,1日の仕事を終えて“デッキ”に上がって過ごすのが私にとって最高のひとときだ。

“デッキ”とは口径8mの望遠鏡4基からなる超大型望遠鏡VLT(Very Large Telescope)が立つ台のこと。満天の星空の下,天体ドーム群は滑らかに動き,その横で私はパイプをふかす。ほの白い光を放つ地平線を背景に,天文台を取り囲む乾燥した大地が黒いシルエットとして浮かび上がる。

私はドーム群を見上げては感嘆の念を新たにし,このプロジェクトに参加できた幸運をかみしめる。VLTは世界最高の望遠鏡セットだ。430トンに達する巨大な機械が4基,天を見つめながら回転する。あたかも星々を相手にバレエを踊っているかのようだ。

VLTはケック望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡,VLA(Very Large Array,米ニューメキシコ州にある電波望遠鏡)などの最先端の大望遠鏡と同様,人類文明の1つの到達点を示す。VLTの各部を見れば,この望遠鏡が多くの人々の血と汗の結晶であることがわかるはずだ。

しかし,天文学の歩みはとどまることを知らない。VLTが完成するや“次”の検討が始まった。口径が25m,30mさらには100mに達する超大型望遠鏡だ。100m級望遠鏡はOWLという。フクロウ(owl)のように暗闇を見通す眼を持ち,1基でパラナル天文台のデッキを占有するほどの圧倒的な大きさ(OverWhelmingly Large)になることから名が付いた。私(著者)もOWL計画に参加している。

科学では新しい実験機器の登場によって謎解きが進むと同時に,新たな謎がもたらされる。最新鋭の口径8?10m級の望遠鏡でも,その稼働によって,新たな天文学上の重要テーマが浮かび上がってきた。例えば,他の恒星系の地球型惑星の組成分析と生命の徴候の探索,宇宙で最初に誕生した銀河の観測,暗黒物質と暗黒エネルギーの性質を理解すること,探査機が送られていない太陽系内の多数の天体を撮影することなどだ。 それには今より何百倍,何千倍もの性能を備えた新世代の巨大光学望遠鏡が不可欠になる。