アルツハイマー病を阻止せよ
治療薬の開発戦略

M. S. ウォルフ
200608

日経サイエンス 2006年8月号

9ページ
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この10年ほどの研究から,アルツハイマー病の発症と進行にかかわる分子メカニズムが解明されつつある。最新の研究成果をもとに,治療薬の研究開発が急速に進み,臨床試験に進む薬が続々と現れている。

アルツハイマー病の特徴は,脳にアミロイド斑というシミのような塊と神経原線維変化とよばれる線維のもつれが見られることで,その正体はいずれもタンパク質だ。アミロイド斑はニューロンの外にアミロイドβ(Aβ)が蓄積し,神経原線維変化はタウと呼ばれるタンパク質がニューロンの軸索や樹状突起の内部にたまる。この2つの特徴が,病気の原因なのか,ニューロンの死を示す結果なのかについては長い間議論されてきたが,アルツハイマー病の発症には,Aβがニューロンに損傷を与えるプロセスが不可欠であり,タウの変化はその後で生じることから,最近では「アミロイドカスケード仮説」が有力視されるようになった。

従来の治療薬が神経伝達物質をターゲットにしていたのに対し,現在開発中の薬の多くはAβが生成される際に働くプロテアーゼ(タンパク質リン酸化酵素)に狙いを定めている。とくに,Aβがその前駆体(APP)から切り取られる際に作用するβセクレターゼとγセクレターゼは有力な標的候補だ。また,Aβに対する抗体を作るワクチン療法の研究も進んできた。

一方,タウタンパク質をターゲットに,ニューロンの変性を防ぐ薬も検討されている。現在のところ,臨床試験に進んだ薬はないが,タウの変化はアルツハイマー病以外の神経変性疾患にも共通して見られるため,治療薬開発への期待は高い(日本で開発中の食物ワクチンについても囲み記事で紹介)。