温暖化が招いた大絶滅

P. D. ウォード
200701

日経サイエンス 2007年1月号

10ページ
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地球上の生命の半分以上が姿を消す「大量絶滅」が過去5億年間に繰り返し起こってきた。恐竜を滅ぼした白亜紀末の大量絶滅については小惑星衝突が原因と考えられているが,他の絶滅事象の原因には十分な説明がついていない。新たな化石と地球化学的な痕跡を解析した結果,ショッキングな環境メカニズムが浮かび上がった。地球温暖化の結果,海洋が酸欠状態になり,有毒ガスを吐き出したらしい。
 
太古の試料について炭素同位体比(炭素12に対する炭素13Cの比)を調べると,当時の陸と海にいた植物体の総量を示す指標が得られる。白亜紀末についての測定値は,植物が突如として激減した後に急回復したことを示しており,小惑星衝突説と矛盾しない。しかしぺルム紀や三畳紀の大量絶滅の前では,5万? 10万年の期間中に同位体比の変化が何回も生じている。植物は急死と復活を繰り返し,単一の天体衝突による異変とは考えられない。
 
また,バイオマーカー(通常は化石に残らない小さな生命体が遺した化学的残留物)を調べた結果,白亜紀末を除く大量絶滅期には世界の海が非常な低酸素状態に逆戻りしていたことがわかった。無酸素状態でのみ生息する光合成硫黄細菌などが,当時の海面表層で大繁殖していたのだ。
 
考えられるシナリオは以下のようなものだ。まず,大規模な火山活動によって膨大な二酸化炭素とメタンが放出され,急激な地球温暖化を引き起こす。海水温が上がって,大気から海に溶け込む酸素の量が減る。これに伴い,深海の硫酸塩還元細菌が作り出した硫化水素に満ちた水が表層に湧き上がり,硫黄細菌が繁殖するとともに,酸素呼吸をする海生生物が窒息死する。硫化水素は大気にも拡散し,陸上の動植物の命を奪うほか,上空のオゾン層を破壊する。オゾン層の保護が失われ,太陽の紫外線によって残りの生命も死に絶えたのだろう。