特集:不確定性原理の今
新たな不確定性原理を求めて

中島林彦(編集部)
200704

日経サイエンス 2007年4月号

12ページ
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原子の中の電子などの振る舞いを説明する量子力学。その根本にあるのが今から約80年前に提唱されたハイゼンベルクの「不確定性原理」だ。だが,極微の世界はいまだ完全には解明されず,研究の進展によって,不動と思われていた不確定性原理にも揺らぎが見え始めた。東北大学の小澤正直教授によって新たな不確定性原理の式が示された今,見直しは不可避の情勢だ。

不確定性原理とは次の不等式で表される。位置の不確定さの幅をΔq,運動量の不確定さの幅をΔpとすればΔqΔp≧h/4π。πは円周率,hは量子の世界の基本定数「プランク定数」だ。この不等式は大学の物理学の教科書の冒頭に載っており,量子力学の基礎として位置づけられている。式は非常に簡潔だが,意味するところは実は非常に複雑で奥が深い。「一般にはあまり意識されていないが,この不等式には大きく分けて2つの種類がある」(小澤教授)。式の形はまったく同じだが,左辺に置かれている位置と運動量の不確定さの幅ΔqとΔpには2通りの物理的解釈があるのだ。

1つは量子が持つ基本的性質から導かれるΔqとΔp。電子などの位置は波動関数,つまり確率で表現される。確率でしか表現できないということは,一点に静止し続けることは不可能であり,常に揺らいでいることを意味する。これを「量子揺らぎ」という。量子揺らぎの幅は,統計学的には「標準偏差」で定義される。標準偏差はσ(シグマ)と表されるので位置の量子揺らぎをσq,運動量の量子揺らぎをσpとすればσqσp≧h/4πになる。

もう1つは観測にからむ不等式だ。位置を観測する場合,その測定誤差はε(イプシロン)とよく表記されるので,Δqはεqと表される。一方,位置測定による運動量の乱れによる変化量はη(エータ)と表記されるので,Δpをηpと書く。不等式はεqηp≧h/4πと表される。この不等式が破られているケースが見つかったが,小澤教授が普遍的な測定の数学から導き出した新しい不等式はこうしたケースでも成り立ち,物理的解釈を与えてくれる。