遺伝子を調節するRNA リボスイッチ

J. E. バリック
R. R. ブレーカー
200704

日経サイエンス 2007年4月号

9ページ
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長い間,メッセンジャーRNA(mRNA)はDNAに保存された遺伝情報をもとにタンパク質をつくるときの伝令役にすぎないと考えられていた。だが私たちが細菌から発見したmRNAは,驚くべき能力を持っていた。

私たちが注目したのは,細菌のビタミン生産にかかわる遺伝子だ。この遺伝子のmRNAは,細胞内のビタミン量を感知して立体構造を変える。そして自身がコードするタンパク質が必要かどうかを判断し,タンパク質合成をコントロールする。このmRNAが働くと,細胞内にビタミンが足りないときはビタミン生産にかかわるタンパク質がたくさん合成され,ビタミン生産が進む。逆にビタミンが細胞内に十分あるときは,タンパク質ができないのでビタミン生産も止まる。

従来,こうした状況に応じた遺伝子発現は管理役のタンパク質が制御するというのが常識だった。しかし細菌のビタミン生産では,タンパク質ではなくRNAがビタミンを感知して,自分の遺伝子の発現のオンとオフを制御することにより,細胞内のビタミン量を管理していることがわかった。私たちは自分で自分の発現を制御している新たな種類のRNAを「リボスイッチ」と名付けた。

このように高性能で驚くべき力を発揮するRNA分子は,生命誕生の前後に存在したと思われるRNAだけで自己複製をしていた生命の世界「RNAワールド」の遺物なのだろう。リボスイッチによる遺伝子発現制御もその時代に生まれた自己管理システムだ。リボスイッチが非常に重要なシステムだったからこそ,現在の生物にも受け継がれてきたのだろう。

リボスイッチの研究が進むにつれて,多くの病原菌はリボスイッチを利用して自らの基礎代謝を制御していることがわかってきた。人間が病原菌と闘うための手段としてリボスイッチを応用する研究も始まっている。