自己抗体で病気を予測する

A. L. ノトキンス
200706

日経サイエンス 2007年6月号

9ページ
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ある種の自己免疫疾患では,実際に症状が出る数年以上前から,血液中に自己抗体が現れることがわかってきた。こうした自己抗体の有無を調べることで,将来の発病に備えようという研究が進んでいる。この「予測自己抗体」の発見のきっかけになったのは1型糖尿病(抗インスリン型糖尿病)の研究だった。1型糖尿病はインスリンを作る膵臓のランゲルハンス島のベータ細胞が自己抗体によって攻撃され,インスリンを作れなくなる病気で,代表的な自己免疫疾患の1つだ。1型糖尿病患者の持つ自己抗体には,抗インスリン抗体,GAD抗体,IA-2抗体の3種があり,全体の9割近い患者がこれらのうち少なくとも1つを持っている。さらに,こうした自己抗体は発病の10年も前から血液中に現れ,血中に見られる自己抗体の種類が多いほど発病する確率が高いことが,大規模な追跡調査から明らかになった。また慢性リウマチの場合,予測自己抗体を持つ人の発病リスクは持たない人の15倍も高い。
 
こうした自己抗体を使って,予防治療によって症状の出る時期を遅らせたり,環境要因を取り除く試みも始まっている。慢性リウマチの場合,発病の初期に進行を抑える薬を投与する治療法があるので,自己抗体が見つかった時点で早めに薬物治療を始めることが予防策となるはずだ。またセリアック病(食物中のタンパク質グルテンに免疫系が反応し,小腸の内側の細胞を攻撃する)では,グルテンを含む食事を避けることで発病が防げると考えられる。
 
有効な治療法のない病気の場合,発病予測は必ずしも歓迎されないかもしれない。自己抗体の検査が一般化すれば,遺伝子検査同様,保険加入の制限や勤務先での差別につながる可能性もある。予測自己抗体の探索は自己免疫疾患以外の慢性疾患でも行われており,今後多数の自己抗体が発見されると考えられるが,予測自己抗体を医療の場で活用するには,予防方法や治療方法の進展が不可欠だろう。