暮らしをまるごとデジタル記録

G. ベル
J. ゲメル
200706

日経サイエンス 2007年6月号

10ページ
( 2.4MB )
コンテンツ価格: 713

人の記憶は本当に頼りないもので,だれしもその限界には悩まされる。友人の電話番号や担当者の名前をうっかり忘れたり,愛読書の題名を思い出せなかったりする。そこで,さまざまな戦略を用いて忘却と戦う。メモを書きつけた付箋を貼ったり,携帯電話やPDAのアドレス帳を利用したりする。だが,肝心なことほど記憶の網の目からこぼれ落ちてしまうものだ。そんな状況を改善しようと,マイクロソフトリサーチに所属する私たちのチームは,数年前から生活のあらゆる面のデジタル記録に挑んできた。その手始めに,私たちの1人(ベル)の生活を記録してきた。過去6年間,ベルが交わした会話や機械の操作,目で見た景色,耳で聞いた音,閲覧したウェブサイトのすべてが,個人デジタルアーカイブに安全に保存されており,検索することもできる。
 
このようなデジタルメモリーは,過去の出来事や会話や仕事を思い出す手がかりになる。しかし,デジタルメモリーの可能性はそれだけではない。例えば持ち運びできるセンサーを使えば,血中酸素濃度や空気中の二酸化炭素量など,人間には感知できない量を測定,記録できる。その変化をコンピューターで分析すれば,小児喘息を悪化させる環境条件がわかるかもしれない。生涯で約30億回に及ぶ鼓動もセンサーで測定可能だ。そのほかの生理学的指標とともに記録しておけば,心臓発作の危険性を予測できるだろう。健康状態に関するこうした情報がわかれば,医師は患者の異常を早期発見して重症化する前に警告できるだろうし,健康状態を詳細かつ継続的に知ることができるので,「この症状はいつからですか」といった質問で患者を悩ませることもなくなるだろう。