燃料電池車を満タンにするには

S. サティヤパール
J. ペトロビッチ
G. トーマス
200707

日経サイエンス 2007年7月号

10ページ
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シャルルの法則にその名を残すフランスの物理学者シャルル(Jacques Charles)は,1783年の晩夏のパリで驚くべき実験をやってみせた。ゴムで覆った絹製の気球に空気より軽い水素を詰め,上空3000フィート(約 900m)まで浮き上がらせたのだ。その光景を目の当たりにした農民たちは恐ろしさに震えあがり,気球が着地した途端に破壊してしまったという。しかし,シャルルの挑戦は2世紀以上たったいまもなお研究の対象となっている。それは,宇宙で最も軽い元素である水素を輸送に活用するという挑戦だ。
 
燃やして使うにせよ,燃料電池に活用するにせよ,水素はいくつかの理由で未来の自動車燃料として魅力的な選択肢となっている。水素はさまざまな種類の原料といろいろなエネルギー源(再生可能エネルギーや原子力,化石燃料)を使って生成でき,毒性がないため,多岐にわたる機器のエネルギー源として活用できる可能性がある。燃やしても温暖化ガスである二酸化炭素を排出しないのも魅力だ。
 
また,水素を燃料電池(水素と酸素から電力を生み出す装置)に供給すれば電気自動車の動力源になり,副産物は水と熱だけだ。そのうえ,燃料電池車は現在の自動車よりもエネルギー効率が倍以上優れている。ゆえに,水素は環境問題や社会問題の解決に役立つと考えられ,大気汚染やそれに伴う健康被害,地球規模の気候変動,石油の海外依存といった諸問題を軽減できるかもしれない。
 
しかし,水素を自動車燃料として使うには依然として大きな問題が立ちはだかっている。水素は同じ質量のガソリンの3倍のエネルギーを備えているものの,従来の液体燃料のようにかさばらず簡単に貯蔵するのは現行の技術では不可能だ。燃料電池車の最大の障害は,望みの航続距離や性能を実現する十分な量の水素をいかに効率よく安全に積み込むかにある。つまり,これらの条件を完全に満たすような水素貯蔵の方法を見つけ出さなければ燃料として活用するのは難しい。