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宇宙初期に起こった急膨張「インフレーション」は私たちの宇宙がより大きな空間に埋め込まれていることの証拠かもしれない。ひも理論から存在が予測される並行宇宙が衝突したり,余剰次元空間の形が変わったりすると,私たちの宇宙が急激な加速膨張を起こす可能性がある。
半径460億光年の空間に無数の星が存在するこの宇宙。しかし最新の理論によると,この観測可能な宇宙も宇宙全体のごく一部にすぎないようだ。さまざまなタイプの並行宇宙があり,全体として壮大なマルチバース(多宇宙)を作り上げている──そんな並行宇宙の存在が浮かび上がってきた。
もっとも,そうした別の宇宙を直接に観測できるかというと,望みは薄い。あまりにも遠すぎるか,私たちの宇宙とはある意味で“切り離された”存在だからだ。だが,数ある並行宇宙のなかには,私たちの宇宙と離れていながらも影響を及ぼしているものがありうる。その場合,この影響を検出できるだろう。
こうした別世界が存在する可能性は,ひも理論(弦理論)の研究によって示された。自然界の究極理論の最有力候補とされる理論だ。ひも理論の名前の由来ともなった「ひも(string)」自体は極めて小さなものだが,その特性を支配する原理から,もっと大きな膜のような物体「ブレーン」の存在が導かれる。私たちの宇宙は3次元のブレーンにほかならず,それが9次元空間のなかに浮かんでいるのかもしれない。
ただ残念なことに,ひも理論は実験的検証に欠けている。一方,宇宙の最初期に急速な加速膨張が起こったとする「インフレーション理論」は有力な宇宙論モデルだが,物理の根本法則に立った説明を欠いている。両者は互いの欠落点を補完できるだろうか?ここ2〜3年で,「ひも理論によってインフレーションを説明できるか」が研究され始めた。
宇宙のインフレーションを引き起こしたものは何なのか。ひも理論は2つの一般的なメカニズムを提示した。ブレーンの衝突と,余剰次元空間の変形の2つだ。物理学者は場当たり的な仮定を置くことなしにインフレーションの確固たるモデルを導くことが初めて可能になった。
この進展はとても心強い。ひも理論は極微の現象を説明する研究から生まれたが,その原理は広大な天空のなかに記されているようだ。
再録:別冊日経サイエンス196「宇宙の誕生と終焉 最新理論でたどる宇宙」