排出権取引を生かす道

D. G. ビクター
D. カレンウォード
200803

日経サイエンス 2008年3月号

10ページ
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地球温暖化を食い止めるには,世界で排出される二酸化炭素などの温暖化ガスを総量として削減しなければならない。1997年に採択された京都議定書では,排出削減目標を先進国に課し,同時に途上国を巻き込むために「クリーン開発メカニズム(CDM)」と呼ばれる仕組みを作った。先進国が,途上国の排出削減プロジェクトに投資することで,そのプロジェクトによって実現される削減量を,自国での削減枠に充当できるというものだ。エネルギー利用効率が高い水準にある先進国は,比較的低コストで目標の削減量達成に見通しをつけることができ,途上国は排出増の抑制効果が期待できる。
 
欧州では域内でキャップ・アンド・トレード方式の排出権取引が実施されている。排出できる上限値(キャップ)を排出権として工場などに割り当て,削減努力の結果,排出量が上限より下回った場合,余剰となった排出権を他に売ることができる。逆に上限を超えて排出した場合は,超過分に相当する排出権を購入することで課徴金の支払いを逃れることができる。取引される排出権の価格は需要と供給によって変動する。企業には課徴金を支払うか,排出権を購入するか選択肢が与えられるわけだ。
 
クリーン開発メカニズムも排出権取引制度も一定の効果は上がっているが,問題も発生している。排出枠を過剰に配分したことで価格が暴落して市場が混乱したり,政府とのつながりが強い特定の企業が優遇されたり,取引ルールの穴を突いて莫大な利ざやを得る投資家がいるなどの事例が報告されている。排出枠のように,元来存在しなかった価値を人為的に生じさせているところに難しさがある。それぞれの制度が機能するには,その運用に十分気を配る必要がある。