顕微鏡で見る細胞のきらめき

E. ハリソン(SCIENTIFIC AMERICAN写真記者)
200803

日経サイエンス 2008年3月号

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歓喜のシーンも恐怖の光景も,私たちが視覚的に得る情報はたったひとつの経路から集められたものだ。網膜の細胞が光子をとらえ,これらの信号が脳に伝えられて,画像として解釈される。しかし肉眼の解像度を超えた小さな構造の場合,反射される光子がごくわずかで眼では検出できないため,顕微鏡の道案内が必要となる。
 
ここに掲げた画像は「2007年オリンパス・バイオスケープ・デジタル画像コンペティション」(オリンパス・アメリカ主催)の入選作。顕微鏡写真の技術的先進性と美的要素の両方を競うコンテストで,生物学研究における光学顕微鏡の最先端が表現されている。
 
ルネサンス,あるいは革命と呼ぶべきものが,光学顕微鏡の分野で進んでいる。光のパレットは一段と多彩になってきた。新たな蛍光マーカーと,それを試料に組み込む遺伝子工学技法が開発され,新発見への扉が大きく開かれた。例えば最優秀賞に選ばれた上の画像は「ブレインボー」という新技法を使っている。マウスの脳にある個々のニューロンが顕微鏡下で別々の色を示すようにした。この方法によって,迷路のような神経回路のなかで個々の軸索を追跡し,脳の結線を突き止めることができる。以前の技法ではとても不可能だったことだ。
 
道具の精度も変わりつつある。個々のタンパク質分子に標識をつけ,分子がどのように移動するかを見られるようになった。また,細胞の分裂や分化の様子をライブで見ることも可能になっている。“光の絵筆”を大きく動かして周辺部を含めた全貌を素早く描くこともできれば,繊細な絵筆をゆっくり遣って生命の一端を細かく描き出すこともできる。顕微鏡技術の革新によって,二律背反とされてきた描画速度と解像度の隔たりは縮小を続けている。
 
さまざまな技法によって生物の微細構造が見られるようになり,膨大なデータが蓄積してきた。生命を詳細に描き出した大画集が生まれ,あらゆる人がその画集を見ることができる。作品の細部に驚きの目を向け,それを理解する人にとっては,とりわけ意味深い画集である。