血管を正してがんを治す

R. K. ジェイン
200804

日経サイエンス 2008年4月号

9ページ
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腫瘍の内部には異常な血管がつくられている。正常な血管と異なり,血液は一定の方向に流れない。太さは場所によりさまざまで,分岐も不規則だ。腫瘍内には未熟な微小血管が絡まりあった領域もあれば,血管が全くない領域もある。血管壁の大きな孔から液体が漏れだし,周辺組織が腫れあがってしまう。

血管の構造や機能が異常になると,抗がん剤の腫瘍への到達は困難になる。わずかな量が到達できたとしても,組織の中で不均等に分布する。腫瘍内に十分な薬剤が届かない領域が少しでもあれば,がん細胞は生き残り腫瘍を再形成する可能性がある。さらに悪いことに,腫瘍血管が腫瘍内部を酸性で低酸素状態にするので,腫瘍を攻撃するはずの免疫細胞は機能できず,酸素を必要とするある種の抗がん剤治療や放射線治療は効果を発揮できない。このように,腫瘍血管はありとあらゆる面でがん治療を妨げている。

だが,この異常な血管を修復できれば腫瘍内の悪環境を正常な状態に戻し,治療効果を高められるだろう。驚くべきことに,血管正常化のかぎを握るのは,腫瘍血管を破壊するために開発された血管新生阻害剤だ。

健常な組織で血管がつくられる時,VEGFをはじめとする血管新生促進因子と血管新生抑制因子のバランスはうまく制御されている。しかし腫瘍は新しく血管をつくる際,促進因子を大量に生産する。そこで,血管新生阻害剤を使って促進因子の働きを抑えると,一定の期間ではあるが腫瘍血管が正常化し,さまざまな治療を最も効果的に行えるようになる。