多世界から生まれた計算機

古田 彩
200804

日経サイエンス 2008年4月号

8ページ
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 現在のスーパーコンピューターをもってしても何億年もかかる計算を一瞬のうちに解いてしまうとされる「量子コンピューター」。世界の先進的な大学や企業が研究にしのぎを削る注目分野だ。
 量子コンピューターは「ミクロ世界で生じる状態の重ね合わせを利用して計算するから速いのだ」と,一般には説明されている。しかし,基礎理論を構築した英国の物理学者ドイチュ(David Deutsch)にいわせると,量子コンピューターは「多数の並行宇宙を使って計算する計算機」だ。「その能力の源泉は,膨大な数の並行宇宙で計算を分担する点にある」。この言葉からもわかるように,エヴェレットの多世界解釈なしにはドイチュの発想もなかったといえる。
 現在のコンピューターのプロセッサーをいかに高速化してたくさんつなげても,量子コンピューターにはならない。「計算する」ということそのものを,現在のコンピューターとはまるで違う視点からとらえたユニークなマシンが量子コンピューターだ。計算は数学ではなく,物理的に表された情報を変化させる物理過程──という考え方が基本となった。
 エヴェレットに劣らず型破りな物理学者ドイチュと,同時代の科学者たち,その柔軟な頭脳から生まれた量子情報科学という新しい科学の流れを紹介する。