自己組織化する量子宇宙

J. アンビョルン(ニールス・ボーア研究所)
J. ユルキウェイッツ(ヤギェウォ大学)
R. ロル(ユトレヒト大学)
200810

日経サイエンス 2008年10月号

9ページ
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 時間や空間はどのように現れたのだろうか? どのように4次元時空は形づくられ,私たちの世界の舞台となったのだろうか? その時空は,非常に小さなスケールではどのようにみえるのだろうか? こうした疑問の数々は「量子重力理論」へと物理学者を駆り立てるが,一般相対性理論と量子論の“結婚”は未だ実現していない。
 量子重力理論の候補の1つに「超弦理論」がある。しかし,それは先ほどの疑問のいずれに対しても答えを与えていない。そんな中,4次元時空をつくり出すというか,4次元時空がひとりでに生まれる理論が登場した。「因果的動的単体分割」だ。
 そのレシピは実に簡単だ。少数の基本的な構成要素を用意する。量子論の原理にしたがってそれらを集め,よくかき混ぜて落ち着くのを待つだけだ。これで量子時空ができあがる。未知のものは何も導入する必要はない。
 このレシピはホーキング(Stephen Hawking)によって一躍有名になった「ユークリッド量子重力理論」をもとにしている。この理論は可能なあらゆる時空の形状を重みをつけて重ね合わせることで私たちの宇宙が現れるというものだ。だが,そのアイデアをコンピューターシミュレーションで試してみると,宇宙はくしゃくしゃにしぼんだボールのようになるか,ポリマーのような平らなものになるかのどちらかだ。いずれも,私たちの宇宙とは似ても似つかない。
 著者たちは失敗の原因を探すうちに,重要なポイントにたどり着いた。それは「宇宙には因果律が備わっている」というものだ。因果律とは原因と結果が決まった順序で起こるという原理で,一般相相対性理論に不可欠なものだ。因果的構造を組み入れて改めてシミュレーションしたところ,果たして4次元時空ができあがった。この時空は大きなスケールでみると,見事に一般相対性理論の重力方程式の解の1つ「ド・ジッター宇宙」だった。しかも,シミュレーションの詳細を少々変えても結果がほとんど変わらず,普遍性を備えている。
 では,量子論が重要になる小さなスケールはどうなっているだろうか? なんと,時空を“顕微鏡”で拡大していくと,次元が連続的に変化するのだという。このことは,時空が時空の“原子”のような基本単位が集まってできたものではなく,無限に同じ構造を繰り返す“退屈のきわみ”でできていることを示唆しているかもしれない。